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さくらんぼ 2nd

カテゴリー:プレLAND

実施年度:2023年度

    参画施設・団体

    豊島区立心身障害者福祉ホームさくらんぼ

    心身障害者の自立助長のための日常生活の援護、支援を行う施設。

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    さくらんぼは、豊島区在住の心身障害者の方が保護者の死亡・高齢化・疾病などの理由で、就労または福祉作業所等への通所が困難となった場合に、住み慣れた地域で生活ができるよう、自立助長のための日常生活の援護、支援を行う施設。

    社会福祉法人 恩賜財団 東京都同胞援護会
    心身障害者福祉ホーム さくらんぼ 公式ウェブサイト

    https://doen.jp/introduction/handicap/sakuranbo

    活動紹介

    イメージを全身で表現し合って出会う

    池袋駅から歩いて辿り着く心身障害者福祉ホームさくらんぼの職員たちはそれぞれにさまざまな地域への思いを抱えていた。どんなプロジェクトをやることが自分たちにとって有意義なのだろうか。今まで出会っていない人たちにさくらんぼの施設を知ってもらうには、何をすべきか。まずは事務局が推薦するダンサーのアオキ裕キを招き、多様な人々と関わった今までの活動についてプレゼンテーションしてもらい、一緒に体を動かしながらアオキの手法について学ぶ機会を設けた。職員は実際にアオキのダンスワークショップを体験し、さまざまな可能性を秘めた活動だということは直感的に理解したが、枠にとらわれないなんとも形容し難い活動の内容や意義をどう言葉にし、参加者を募れば良いのか課題も山積みだった。

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    そんな中、少しでもお互いを知る契機をつくるためモルック大会(ガイドヘルパーと利用者のための交流会)にアオキ率いるダンスチーム新人Hソケリッサ!のメンバーやアーティストの西原尚を招き、一緒にモルックをして交流をした。さらに、毎年恒例の「さくらんぼ祭り」では観客参加型のパフォーマンスを実施したり、少しずつ互いの価値観や懸念などを言葉にできる関係が築かれていった。クリスマスイブに開催したダンスワークショップでは、今までさくらんぼに来たことのない人々も訪れ、障害の有無に関わらずこどもも参加できるような交流の場をつくることに成功した。

    活動記録 ウチュウダンス  

    プロジェクトの動き

    2023年

    2023年6月26日(月)10:30~12:30 会場:さくらんぼ

    企画構想会議   TalkTreeWORKSHOP® (アーティスト、コーディネーター、職員、事務局)

    ツリー(Talk Tree)を作りながら今年度の活動を考える


    職員11名とインターン学生1名の計12名で「TalkTreeWORKSHOP®」(※)を実施した。TURN LANDプログラム担当者はもちろん、園長、副園長、TURN LANDプログラムをまだ経験していない職員も参加し、施設でのアートプロジェクトの可能性について意見を交わした。
    池袋駅から徒歩圏内という施設の環境の話から始まり、地域での施設の役割など地域住民との交流を見据えた意見が多く出てきた。海外ルーツの人が多く暮らす豊島区で、国籍や言葉を超えた交流や、多様性について学べるプログラムを実施したいという声もあがった。

    黄色の付箋には「理想の地域」、赤には「どんな価値を提供したいか」、白には「さくらんぼが地域で担う役割」についての言葉が書かれている。
    TURN LANDプログラムに参加したことがない職員も参加し、アートプログラムに期待することについてイメージを共有した。
    普段職員同士ではあまり話さないような、自分の価値観や施設の意義、地域社会の理想イメージなどを多くの職員とゆっくり共有する貴重な機会となった。

    「おはよう」「お帰り」など声を掛け合い、困った時には助け合える理想の地域社会のイメージを共有する一方で、地域住民が「障害特性などへの配慮がわからない」「アートを理解するのが難しい」という不安を抱くことが予想される。そのような不安に対して、「あまり深く考えないで参加できるプログラム」の実施を期待する意見が集まった。

    ※ TalkTreeWORKSHOP®は、組織や人を1本の木に見立て、自分たちの活動が誰のために、何のためにあるかについて考え、積極的なコミュニケーションを促すことを目的としたもの。TalkTreeWORKSHOP®を考案した加藤未礼がファシリテーターを務め、今年度のプログラム参画施設・団体でそれぞれ実施している。

    2023年9月12日(火)13:30~15:30 会場:さくらんぼ

    企画実施 職員向けのダンスワークショップ

    アオキ裕キによる活動紹介と職員向けダンスワークショップを実施


    前回さくらんぼで実施したTalkTreeWORKSHOP®では、近隣の人たちと挨拶をしたり困った時に声を掛け合ったりできる地域を目指したいという意見が出た。そのための第一歩として、高齢者や日本語を母語としない人でも気軽に参加できるダンスワークショップを実施し、地域の人たちの交流のきっかけ作りをすることを、今年度のプログラムの目標に掲げた。
    まずは職員が様々な活動をしているアーティストがいることや、アートプログラムを活用してどんなことを仕掛けていける可能性があるかを具体的なイメージとして共有する必要があった。そこで福祉施設や海外で外国人とのダンスワークショップの経験のあるダンサー/振付家のアオキ裕キを招き、彼の活動について学ぶ機会をつくった。

    前半はアーティストに自身の活動やその動機についてプレゼンテーションしてもらい、後半は一緒に体を動かしながらアオキのダンスワークショップの手法についてイメージを共有した。アオキが2005年より始めた、路上生活の経験がある人たちによるダンスグループ「新人Hソケリッサ!」のメンバーである西も参加し、企画実施に向けて、運営の懸案事項などについても意見交換をした。

    活動紹介をするアオキ。2001年NY留学中に同時多発テロに遭遇。それまでのスタイルから方向転換し「新人Hソケリッサ!」をスタートした経緯などについて話した。
    アオキのかけ声に合わせて、脱力したり伸びをしたり、自分のイメージで動いていくワーク。始まる前は緊張していた職員も、身体を動かすとリラックスした様子に。
    アオキは職員に丁寧に声をかけながら一人一人が生み出す「踊り」に注意を向けさせる。
    紙にクレヨンで自由に線や円を描き、それを踊る。
    踊りを見せ合い、拍手をしたり感想を言ったりすることで相手の意志や存在を肯定していく。

    photos: Ayaka Umeda
    参加した職員からは、「最初は恥ずかしいと思ったけれど、体を使って言葉以外で表現できた時、面白かった」「この楽しさを利用者や地域の人にも味わってほしい」「正解も不正解もないと感じられたことがすごく良かった」などの感想が出た。

    2023年11月5日(日)14:10~14:40 会場:さくらんぼ 会議室

    企画実施 さくらんぼ祭にて新人Hソケリッサ!+西原尚パフォーマンス

    アオキ裕キ率いるダンスグループ・新人Hソケリッサ!とユニークな楽器を奏でる西原尚のパフォーマンス


    福祉ホームさくらんぼが地域開放行事として行う「さくらんぼ祭」。玄関前や2階の食堂を利用して、様々な福祉施設で作ったコーヒー、Tシャツ、カレンダー、クッキーやチョコレートなどが販売されている。以前、ダンサー・振付家のアオキたちが施設を訪問した時にみんなで競ったモルック(木の棒を投げて、数字が書かれた棒を倒して点を取るフィンランド発祥のゲーム)にチャレンジできるコーナーがあったり、利用者によるダンスの発表や大道芸人のクラウンなどの出し物が繰り広げられたりする。イベントを楽しみにしていた利用者やOB・OGが朝早くから集まったようで、予定より30分早く始まった。

    今回、出し物の一つとしてパフォーマンスを実施することになったのはアオキが率いるダンスグループ・新人Hソケリッサ!(以下、ソケリッサ)と、自作のユニークな楽器を用いた音楽を奏でる西原尚。パフォーマンスの持ち時間は20分強ほど。TURN LANDプログラムについて事務局の富塚が簡単に紹介し、続いてソケリッサと西原を紹介。それをきっかけに、西原の奏でる静かな音と共にソケリッサメンバーが次々とステージに上がって動く。アオキが踊りを一旦止め、改めて出演メンバー全員を観客に紹介すると、ソケリッサメンバーのソロダンスが始まった。

    事務局の富塚が出演者を紹介する様子。
    ソケリッサの登場シーン。
    マイクを持って観客に出演者を紹介するアオキ。
    ソケリッサのメンバーは一人一人ソロダンスを披露した。
    西原はメンバー一人一人の踊りを真剣に見つめながら異なる楽器で呼応し音を鳴らした。会場内では「独特な踊りね〜」と感心する声が上がった。

    パフォーマンスの後半になると、アオキが「一緒に音を出しましょう」と観客に声をかけ、西原が用意した団扇太鼓やマラカスなどさまざまな楽器を観客に渡した。西原自身も楽器の音をどんどんと大きくし、会場に鳴り響く音とリズムを混ぜながら音を鳴らし続けた。

    職員が一緒に楽器を配って、観客に演奏への参加を促した。
    ソケリッサメンバーも楽器を手渡していく。
    観客にどの楽器がよいか尋ねて手渡す西原。
    長い筒を叩くと一本ずつ異なる音程が鳴る。
    客席にいた利用者の一人と西原の掛け合いが生まれる。

    中には音がうるさいという顔をして外へ出て行く方もいたが、こどもの特性をよく知った保護者が、長い筒が並んだ大きな楽器(※)の前にこどもを連れ出し、西原がやっていたのを真似しながらサンダルのソールで音を鳴らしてこどもの興味を引いたりするなど、その場にいた多くの観客はそれぞれのリズムでその場を楽しんでいた。
    アオキが「良かったら一緒に踊りませんか?」と会場に声をかけると、フラダンスに出演するグループホーム利用者が立ち上がり、ステージに出てソケリッサと一緒に踊り始めた。自作の楽器を独特の動きで鳴らす西原とも向き合い、即興的にその場で生まれる音と踊りを楽しんだ。

    *楽器:PVC Pipe Station 設計:Phil Dadson

    踊りを見ながら、受け取った楽器で自由に音を奏でてその場に参加する利用者たち。
    最後は観客席にいた関係者や利用者、その家族、みんなで場を盛り上げた。
    ソケリッサと共に踊りきった利用者。

    Photos: Ayaka Umeda

    終了後、即興的にステージに上がり踊り出した利用者に対して職員は「ソケリッサに仲間入りできるね!」「すごい踊り!」と感謝と労いを込めて声をかけていた。アオキも「この方が踊りに参加してくれて良かった」と安堵と喜びの表情で拍手を送った。

    2023年12月24日(日)13:30~16:15 会場:さくらんぼ 会議室

    企画実施 ダンスワークショップ「ウチュウダンス」

    アオキ裕キと西原尚によるワークショップを地域向けに実施


    11月の「さくらんぼ祭」でダンスパフォーマンスを行ったアオキ裕キと西原尚が、地域に開いた形でダンスワークショップを開催した。集まったのは、さくらんぼの利用者と職員、グループホーム利用者と世話人、そして地域住民をはじめとした一般参加者、計20名程。
    どんな踊りか参加者に掴んでもらうため、「新人Hソケリッサ!」メンバーのデモンストレーションを披露。それから参加者同士で描いた絵のイメージを、動きに変えていった。後半は西原の楽器も加え、参加者全員が自由に踊りや音を楽しんだ。

    言葉や絵をイメージした動きをそれぞれがやってみる。最初は緊張していた参加者も、身体を動かしていくうちにほぐれた表情に。
    初めに、参加者に向けて挨拶と自己紹介をする西原尚(右)、アオキ裕キ(右から2番目)、「新人Hソケリッサ!」メンバーの山下幸治(左から2
    番目)、西篤近(左)。
    参加者にもマイクを回し、全員が自己紹介をした。ちょうどクリスマスに開催したので、施設のイベントで使ったサンタの衣装なども小道具に使用。
    「新人Hソケリッサ!」の踊りがどんなものかを知ってもらうために、デモンストレーションを行った。題名の無い抽象的な絵を見て、それを身体で表現し、参加者に見てもらった。
    「新人Hソケリッサ!」の西(中央)が絵からイメージした踊りを披露すると、参加者も自然と身体を動かし始めた。
    二人一組になり、相手の動きを真似るワークをした後は、それぞれが絵を描いて交換した。
    相手の絵からイメージしたものを身体で表現することに挑戦。
    後半から西原が自作の楽器で参加。音楽が加わると、会場の空気感がガラッと変化した。
    最後は自由に踊ったり、西原が用意した楽器で音を奏でたりと、参加者それぞれが自由にその場の雰囲気を楽しんだ。

    photos: Ayaka Umeda

    ワークショップ直後に行った振り返りでは、職員から「(利用者が)予想以上にイキイキとしていた」「(利用者に)不安な様子はなく、すぐに踊っていた」という感想があった。アオキからは「もっと時間がかかるかと思っていたが、参加者の豊かな表現力が見えた。広がりが感じられたので、継続して踊る機会を作れたら」という意見が出た。