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フェイト 2nd

カテゴリー:プレLAND

実施年度:2023年度

    参画施設・団体

    放課後等デイサービス フェイト

    小・中・高校生で発達について支援が必要なこどもを対象に、学習支援や居場所づくりなどのサービスを提供している施設。

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    フェイトは、杉並区にある放課後デイサービス。こどもたちのありのままを受け入れ、それぞれのこどもの学習進度、学力に合わせた学習支援や、同じような課題を抱えているこどもたちが、楽しく一緒に活動できる居場所作りを行っている。

    株式会社フェイト公式ウェブサイト

    http://fate201210.php.xdomain.jp

    活動紹介

    宇宙人も来るかもしれない 未来のダンス・フロアに向けた具体的な一歩

    高円寺を拠点に地域でアート企画をコーディネートする大黒健嗣は、前年度にフェイトで開いたダンスフロアで、心赴くまま自然に踊り出すこどもたちを見て、彼らと自分が出会ってきた仲間たちを出会わせるような機会をつくり出したいと考えた。フェイトの職員たちも、地域の人々が障害のある子どもたちに慣れていることが一番大切なことだと考えていたので、外部の人たちとこどもたちがお互い安心した状態で出会えるダンスフロアについてアイデアを出し合うところから今年度の活動は始まった。

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    地域の地図を見ながら、「近隣の老人ホームに出向くのはどうか?」「ライブハウスで開催したらこどもたちは踊れるか?」「公園でやったらどうだろう?」など、さまざまなアイデアを出し合いながら実現に向けて職員とアーティストが一緒に企画運営について話し合えたことで、障害のある子どもたちとの活動における合理的な配慮についてアーティストやサポートスタッフたちが学ぶ機会となり、また職員にとっては文化的な視点に立って改めてこどもたちが生活をする地域について考える機会となった。こどもたちが気に入ってくれるかどうかドキドキしながらつくったオリジナルのコスチュームは、プログラム当日、こどもたちに予想以上に歓迎された。人と人として直接出会う時よりも、出会ったことのない不思議な生き物同士で音楽に身を委ねながら出会う時の方が不思議と気楽で開放感があり、気持ちの余裕を持ってその場を分かち合うことができた。

    活動記録 オーロラ・フロアプロジェクト  

    プロジェクトの動き

    2023年

    2023年6月12日(月) 10:00~12:00 会場:フェイト

    企画構想会議   TalkTreeWORKSHOP®

    ツリー(Talk Tree)を作りながら今年度の活動を考える


    今年度のプロジェクトの方針を考えていく「TalkTreeWORKSHOP®」(※)を実施した。昨年度フェイトでDJイベントを企画したアーティストの大黒健嗣と一緒に企画を構想したいという想いから、大黒と職員が対等な立場で意見を出し合う場となった。
    さまざまな質問に対して、それぞれが思いつくキーワードを付箋に書き、それらをツリーの上に貼っていった。「去年、TURN LANDプログラムを実施しての変化は?」という質問には、「案外盛り上がったことが自信になった」「他人との関わり(距離が縮むのが早かった)」といった言葉があがった。また、「理想の地域」を考える問いには「偏見がない」、「想いを届けたい人はどんな人たちか?」という問いには「障害者と触れ合う機会がなかった人たち」という言葉が出てきた。施設が行うアートプロジェクトの可能性を具体的なイメージで共有する中で、これからやってみたいことについてもたくさんのアイディアが発案された。

    土には「この地域の課題」、根っこには「昨年度TURN LANDプログラムに参加してよかったこと」、幹には「社会的役割」、太陽には「理想の社会」、鳥には「届けたい人」、実の部分には「価値」にまつわる言葉を貼っていった。
    ワークショップを通して出来上がった「フェイト」のツリー。昨年度の振り返りを経て、大事にしたい価値や届けたい層のイメージなど、たくさんのキーワードが出てきた。
    フェイトの職員、目黒英之(左)と髙井功一(右)
    昨年度はフェイトでクラブイベントを企画したアーティストの大黒健嗣。曲線が組み合わさるユニークな幹を作った。

    昨年度の経験によって互いのキャラクターや価値観の重なるところなどが見えていたこともあり、今回のワークショップでは職員一人一人の視点が積極的な提案となって表れていた。「アーティストが考えたことをやってみる」というフェーズから「アーティストと一緒に考える」というフェーズへと移行したのをチームで自覚する回となった。

    ※ TalkTreeWORKSHOP®は、組織や人を1本の木に見立て、自分たちの活動が誰のために、何のためにあるかについて考え、積極的なコミュニケーションを促すことを目的としたもの。Talk Treeを考案した加藤未礼がファシリテーターを務め、今年度のプログラム参画施設・団体でそれぞれ実施している。

    2023年7月10日(月)10:30~12:00 会場:フェイト

    企画構想会議 (アーティスト・職員・事務局)

    アーティストの活動と施設での活動を参照しながら企画を考える


    2回目の企画構想会議を行った。フェイトの職員2名とアーティストの大黒健嗣、TURN LANDプログラム事務局3名が参加し、今年度の企画内容について話し合った。まずは、施設の活動内容や地域での行動範囲などについて尋ね、大黒の高円寺を中心とした杉並区での活動範囲と重なる領域を探ることから始めた。
    大黒は、昨年度の経験からフェイトの利用者に何かを体験させたいというよりは、むしろ彼らのように音楽と踊りが自然な形で繋がっているような存在と普段関わらない人たちをフェイトに呼びたいと思っていた。そのため、フェイトで実施したダンスフロアを発展させていく方向で、今年度のプロジェクトを展開することとなった。

    アイディアを広げていく過程では、大黒が今手がけている駅高架下の壁画プロジェクトのことや、かつて店長をしていたギャラリーカフェやその地下にあるクラブハウスのことなどを共有し、地図を参照しながら地域との関わり方の可能性がどんなところにあるかを想像して話し合った。また、施設の日常の行動範囲にも話を広げ、買い物に立ち寄る場所やいくつかの公園、世話をしている近隣の農園など職員からの話を共有した。
    施設の外に出ることや、お寺や公共ホールを利用することも検討したが、利用者と移動するとなるとその場に利用者が慣れるまでに時間がかかりすぎてしまうことなどのデメリットが多かったため、今年も施設内で行うこととした。利用者にできる限り負担のない形で、このプログラムの社会的価値を上げていく方向でのプロジェクトの作り込みに集中しようという判断だ。そして、昨年度参加していないこどもたちに参加してもらえるよう、曜日を変えて開催することも決めた。

    宇宙人も参加できるくらい器の広い”未来のダンスフロア”を目指すにあたり、コスチュームや雰囲気をもう一工夫したいという希望が挙がる。また地域の大人に向けて、このダンスフロアのビジョンについてプレゼンテーションを行い、”未来人”として本番に参加してくれる仲間を増やす「事前ワークショップ」を実施する提案が出た。それらをかけ合わせて、宇宙人がたまに訪れることをイメージした「未来人ファッション」をするための衣装作りをしよう、と話が次第に具体化していった。

    膨らむアイディアと事業規模を調整できるよう、事務局スタッフが声をかけながら、会議を進めた。

    2023年10月25日(水)16:00~20:00 会場:REN

    企画実施 事前衣装ワークショップ:一般大人向け

    「オーロラ・フロア」に向けてのコスチュームを考えて作ってみる


    今年度もフェイトでダンスフロアを開くにあたり、プロジェクト名はダンスフロアの理想イメージにちなんで「オーロラ・フロア」と名付けられた。「未来人ファッション」という衣装のコンセプトイメージを参加者に理解してもらうため、大黒から「オーロラ・フロア」の背景にある世界観について、まずは共有することからワークショップはスタートした。
    大黒は衣裳デザイナーの室橋奈緒に声をかけ、2ヶ月前からこのワークショップに向けて準備をしてきた。会場のRENは2階建ての趣きある古民家で、和室二間をワークショップスペースとして使用し、大黒、室橋、ぱちゃの3人で参加者を迎えた。そこにはミシン3台、異素材の布切れ15種類以上、さらのお面、工作用紙、カラフルな毛糸、ビーズ、サングラス、カチューシャ、紙粘土、樹脂粘土、鈴などが用意されていた。また、ダンスフロア好きな参加者を集めるために、DJブースも用意し、コスチュームアイテムをつくる“仮のダンスパーティ”として実施した。

    参加者は入ってくるやいなや、日常ではなかなか体験できない空間に心躍る様子の人、すでに構想にふけっている人などそれぞれのペースで思い思いにその場を楽しんだ。
    初めは手順を確認したり、談話しながら作業を進めていたが、少し経つとそれぞれが黙々と制作に取り掛かっていった。お面作りに時間が要すると判断した大黒を含め5人がお面作りを、室橋は衣装を、ぱちゃはどこにでも付けられるアイテム作りに着手。お面を一つ作るのに2時間近くかかり、大黒が流した音楽が消えていても誰も気づかないくらい作業に集中して着実に1つ1つを仕上げていった。

    コスチュームのイメージと「オーロラ・フロア」の世界観を大黒(左)と室橋(右)が説明して参加者と共有。
    スケッチを見ながら仮面やカチューシャの土台に装飾を合わせていく。

    DJブースで音楽を流しながら作業を進める大黒。時間を忘れて黙々と手を動かし続ける参加者。
    素材を貼ったり縫い付けたり、ミシンを使ったりしながらお面やコスチュームを作成。お面の土台に、撚り合わせた毛糸やカラフルなファーを付けていく。
    お面を頭からかぶって仕上がりを確認。
    アイテムの組み合わせを相談し、イメージと合わせていく。
    大黒による「オーロラ・フロア」コスチュームのスケッチ。
    できあがったコスチュームを参加者自身が身に付け、イラストスケッチに近づけてポーズをとってみる。

    photos: Ayaka Umeda
    参加者それぞれの「未来人ファッション」が生まれて、次の「オーロラ・フロア」に持ち込む準備が整った。

    2023年11月15日(水)・17日(金)15:30~17:00 会場:フェイト

    企画実施 DJダンスイベント「オーロラ・フロア」

    未来人コスチュームで熱くなるダンスフロア


    昨年度DJダンスイベントに参加していないこどもたちにも参加をして欲しいという職員の希望から、今年度は水・金と曜日が異なる2日間にわたってイベントを開催。
    アーティストの大黒らが事前ワークショップで準備したお面と衣装を並べ、こどもも大人も好きなだけ着飾れるようにした。「未来人ファッション」として、電飾付きのマントや、お面だけでなく頭からかぶる衣装などがあり、身につけ方も思いのまま。こどもたちが付けても付けなくても参加できるように環境を整えた。

    11月15日に1回目を終えて、17日の2回目は新たなこどもが参加。こどもたちは、フロアを見渡すと率先して気に入った衣装を手に取ったり、衣装デザイナーの室橋たちと一緒に衣装を選んだりした。こどもの中にはかぶりものを苦手としている子や、口に入れてしまう子もいる。注意を払う必要があれば、職員がこどもの特性に合わせた装飾を手渡した。サングラスや、ヘッドギアにウィッグを載せるなど、普段と違う変身した姿を楽しんだ。
    職員もストールのような巻物やアームカバーなどを身につけたり、事前ワークショップに参加した人や、地域の大人も衣装をまとったりしながら数名参加した。

    DJオーロラに扮した大黒。スピーカーとネオン管を持ち込み、フェイトの部屋の角にブースを組んだ。
    部屋の片隅にはこどもたちが手に取りやすいよう、色とりどりのお面やかぶり物、ステッキのような小道具を並べた。
    衣装ワークショップで制作したお面はデザインがさまざまでこどもたちの目を惹く。

    音楽が鳴り始めてからも好きなタイミングで思い思いに衣装を替えてフロアに出る。
    人差し指を上げてフロアに出るオーロラの掛け声で場の熱が上がっていく。
    ダンスフロアならではのコミュニケーションで手と手を取り合う。

    当日はフェイトに入ってくる時からこどもたちの様子が違っていたと職員は言う。エレベーターから施設内に突き進んでいった子は、自分の着ている洋服自体もお気に入りに着替えてから参加していた。通常はおやつを食べてから活動をする流れだが、気もそぞろで、食べていてもフロアから目を離さない様子だったそうだ。

    大黒扮するオーロラによるDJの音楽がかかり始めると、待ちきれないというように動き出すこどもや、衣装を着た格好でじっと様子を眺めるこどももいる。洋楽ロックの名曲ナンバーを皮切りにアップテンポの音楽をオーロラがミックスさせて、「オーロラ・フロア」にいざなった。

    自分で選んだお面やサングラスを身につけ、音楽に乗るこどもたち。
    光る衣装を身にまとって動くこどもたち。部屋の中で不安を感じないように、前半は電気を点けたままのエリアと、暗くしたダンスフロアに分けていた。こどもたちが慣れてきた様子を見た職員の計らいで、後半は一時的に部屋全体の電気を消した。
    小道具を持ち替えて「未来人」になりきるこども。

    フラフープで装飾したスピーカーと、ネオンで輝くDJブース。
    終盤に向けたアニメソングの選曲でこどもたちの動きがさらに盛り上がる。
    音楽が止んだ後も、鏡の前でファッションショーが続いた。

    Photos:Ayaka Umeda
    手をつないで輪をつくり、みんなで挨拶。ありがとうございました!