22

ロート財団 2nd

カテゴリー:プレLAND

実施年度:2023年度

    参画施設・団体

    ロートこどもみらい財団

    こどもたちが自分らしさを探求できるオンラインコミュニティなどの「居場所」を提供している財団。

    + Read more

    ロートこどもみらい財団は、現在の教育制度の下で力を発揮しづらいこどもたちのためにコミュニティづくりやアイデア実現に向けた助成金、メンタリングを支援するほか、実践的な学びによってあらゆる領域の専門家や技術に触れ、自身のスキルやアイデアを磨けるようなプログラムの提供を行っている。

    ロートこどもみらい財団 公式ウェブサイト

    https://future-for-children.rohto.co.jp/

    活動紹介

    作曲家になってみよう〜自分が抱いたイメージを「楽譜」にしてコミュニケーション〜

    音楽の苦手なこどもたちも楽しめる音楽づくりワークショップみたいなものはできないか?ロード財団の荒木は、こどもたちがオンラインを通じて未知の世界に関心を持ってもらえるような、あるいはこどもたちの潜在的な能力を引き出すような音楽プログラムを求めていた。そこで、事務局が作曲家の井川丹に声をかけ、五線譜などで学ぶような西洋音楽の基礎知識が理解できなくてもできる作曲プログラムの考案を依頼した。そして、何度も試作を重ねてついに「nonotone(ノノトーン)」という誰もが作曲を楽しめる「楽譜キット」が完成し、対面開催とオンライン開催の計2回のプログラムを実施した。

    + Read more

    レストランのメニュー表やスケジュール帳も「楽譜になりうる」というあまりにも柔軟でスケールの大きな「楽譜」のイメージをこどもたちと共有するところから始め、こどもたちの抱いた内なるイメージをプロの歌い手や演奏家たちと共有し意見交換をしながら共に作り上げる音楽を、その場にいる参加者たちと分かち合う貴重な体験を実現した。

    活動記録nonotone 

    プロジェクトの動き

    2023年

    2023年7月13日(木)13:00~14:30 会場:ロートこどもみらい財団

    企画構想会議   TalkTreeWORKSHOP®

    ツリー(Talk Tree)を作りながら今年度の活動を考える


    今年度のTURN LANDプログラムの活動開始に向けて、ロートこどもみらい財団でTalkTreeWORKSHOP®(※)を実施した。昨年度の活動を経て、今年度は音楽や踊りなどを活動に取り入れたい、というアイデアがあったことから、ワークショップには他の職員を代表して、代表理事の荒木健史のほか、作曲家の井川丹も参加。今年度の活動計画も踏まえ、意見交換を行った。

    ロート財団の荒木からは、昨年度の振り返りとして、「こどもたちがいつもと違う表現ができた」「保護者がこどもを見る目に変化があった」などの感想が出てきた。昨年度ロート財団の活動には関わっていないが、前身のTURN事業で他施設との交流があった井川からは、「普段できないことに色々チャレンジできる」「深いコミュニケーションがとれる」といった本事業の価値や変化が自身の経験として語られた。
    また、荒木は社会課題として「こどもの居場所の少なさ」を指摘した。荒木にとって「こどもの居場所」とは、「安全・安心・探究」がある基地であるというイメージを共有した。

    TalkTreeWORKSHOP®のワークショップについて説明している様子。
    井川と一緒に作った木の枝の部分に、色々なテーマから考えた言葉の付箋を貼っていく荒木。
    出来上がったツリーを眺めながら、企画についてアイデアを具体化していった。
    「社会の中での役割」について記入する白い付箋には、「地域を巻き込んでいく」「新しい気づき・関係性」などの言葉が書かれた。

    今回のワークショップでは、今後の活動の具体的な展開についても意見を交換した。「自分らしさを体感し、表現する作曲」「協働で行う楽譜作り」などのアイデアが出て、プロジェクトを通して「自分をきちんと知るきっかけづくり」「自分らしさを他者に伝える」という目標が明確になった。

    ※ TalkTreeWORKSHOP®は、組織や人を1本の木に見立て、自分たちの活動が誰のために、何のためにあるかについて考え、積極的なコミュニケーションを促すことを目的としたもの。Talk Treeを考案した加藤未礼がファシリテーターを務め、今年度のプログラム参画施設・団体でそれぞれ実施している。

    2023年8月7日(月)20:15-22:30 オンライン

    企画構想会議

    作曲ワークショップのタイトルと進行を決める


    7月の会議に続き、アーティストの井川とロート財団職員の荒木、事務局スタッフとで企画の日程から内容までを話し合った。作曲ワークショップの開催にあたりオンラインと対面の両方の実施を見込み、会場や広報のこと、ワークショップキット作成と発送時期のことなどを検討。また、プログラムのタイトルについて、井川のアイディアを基に話し合い、作曲キットの折り畳み形状に合わせた「じゃばらトーン」や「ノートスケッチ」などいくつもの候補の中で、呼びやすく親しみやすい「ノノトーン」に決まった。

    ワークの進行については、導入でどんな説明を行うか、最後に演奏をするか、またオンラインではどう進行するかといった流れを考えた。実現したいプログラムを実施するにはさまざまなメンバーが必要。チェロやクラリネットの演奏者、歌手2〜3名、その他指揮者やファシリテーターなどの名前が挙げられた。企画に加わってもらう方への連絡は井川から調整し、ロート財団の方ではメロー(こどもたち)に対しての告知を進めることになった。演奏の他にも、音楽制作するソフト自体がスクリーンに映され、楽譜となるような会場イメージや、その機材操作をする音響スタッフ、カメラ、書記など、必要なスタッフの数などを割り出した。また、このプログラムを通して、こどもたちに「(自分の作曲を)演奏してもらえる喜びを感じてほしい」と井川が思いを語った。

    「ノノトーン」作曲キット作成案。

    2023年11月19日(日)14:00~16:00 会場:としま区民センター 小ホール

    企画実施|対面プログラム:楽譜作り&作曲家体験ワークショップ

    イメージを丁寧にふくらませながら音楽の形にする


    音楽が好きな人だけでなく、あまり好きではない人、ちょっと苦手だと感じている人にこそこのプログラムを体験してほしいという作曲家・井川の思いから、音楽の経験がなくても参加できるワークショップを考案した。ロートこどもみらい財団に登録しているこどもたち(メロー)を対象に参加者を募ったところ、19名の応募があった。
    ワークショップには、井川のほか、チェロ奏者や打楽器奏者、声楽家、声あそびの表現家、音響技術者、ダンサーなどさまざまな分野のスペシャリストたちがゲストとして参加した。彼らの力を借りながら、こどもたち自身が作曲家となり、イメージから音楽ができていく過程を体験し味わった。

    はじめに井川が、自己紹介も兼ねて今回のために作った曲「メローのうた〜みらいのめ〜」をゲストの演奏家やダンサーたちと披露。そのあと、作曲についてのイメージを膨らませるためにこどもたちに問いかけたり、有名な作曲家の名前や、電車の発車音など身近にある音楽を例に挙げ、作曲家の仕事が掴めるように紹介した。また自身の卒業制作の60パートにのぼる楽譜や、昨年作曲した9時間に及ぶ大曲の絵巻物のような楽譜を見せると、こどもたちからも感嘆の声が上がった。そして、今回のゲストである演奏家たちの楽器や声の音質や、得意な表現を次々に紹介していった。

    井川が作曲した楽譜の紹介に見入るこどもたち。
    今回のために作曲した「メローのうた〜みらいのめ〜」を演奏するゲストメンバー。
    「ノノトーン」のサンプルを、チェロ奏者・袴田さんに演奏してもらい、どんな音が奏でられるかをみんなで聴いてみる。
    「ノノトーン」の遊び方
    作曲を始めて、早速袴田さんに相談する。
    描いたイメージを音に換えてみる。

    今回のプログラムでは、「ノノトーン」という井川が考案したオリジナルの楽譜作りをきっかけに、作曲に挑戦した。あらかじめ黒い5線本が引いてある5色の台紙に、大きさも色もさまざまなシールを貼ったり、マジックペンで思い思いの線や形を描き足すことで自分のイメージした音楽を楽譜にしていくというものだ。井川から「ノノトーン」の作り方について説明を受けたこどもたちは、シールや台紙が入ったキットを受け取り、すぐに作曲のワークへと入っていった。

    「ノノトーン」に表現されているイメージを読み取ろうと音について尋ねる歌手の渡邉さん。
    打楽器奏者の若鍋さんの元に集まって、さまざまな打楽器の音色を確かめる。

    身体を使った音楽表現をダンサーの大西さんと一緒に考えているこどもたち。

    台紙には黒い5本線が引いてあるが、5線譜として使う必要はなく、音符の長さや音の高さを自由に設定でき、流れの指示の仕方も自由だ。作曲経験があるこどももいれば、アプリを駆使したり、自分のスマホで録音したりするのが好きなこどももいる。ピアノ経験者やダンスが好きな人もおり、得意とすることや興味・関心の切り口もそれぞれ異なる。こどもたちは思い思いに台紙にシールを貼ったり、カラーペンでイメージを描いたり。自作の「ノノトーン」を手に、演奏者のもとに駆け寄って演奏を依頼するやりとりが始まった。

    イメージとの違いを言葉にして演奏者に伝え、表現したい音楽に近づけていく作業を繰り返していく。
    「ノノトーン」の演奏してほしい部分の希望を中田さんがこどもたちに聞きながら、それぞれが作った「ノノトーン」の違いを声であらわしてみる。


    演奏者に描いた音を鳴らしてもらって、イメージに合ったものや気に入った音は、録音することができる。演奏者や井川のアドバイスを受けて見つけた音を、音響担当のメンバーが順に録音していく。音色のイメージがどの楽器に合うか相談したり、音だけでなくダンサーと表現を試みるこどももいた。また、演奏者と共に試行錯誤を繰り返しているうちに、一緒にパーカッションの演奏をしたり、歌い手の声に加わったりするこどもたちもいた。最後には、それぞれの生み出した音を重ねて、こどもたちによる1曲ができあがった。

    お互いが作曲した音楽を聴き合う間にも、さらに新しい音が作られていく。
    いくつかの「ノノトーン」を重ねることで、新たな音楽作りの方法を思いついたこどもたち。
    こどもたちそれぞれが作曲した音楽が録音・ミキシングされ、一つの曲となってスクリーンに映し出される。誰が作曲したパートかわかるように録音番号が振ってあり、それを目で追いながら聴くことができる。最後には、こどもたちも保護者も、たくさんのイメージが膨らんだ曲に聴き入った。

    photos:Ayaka Umeda

    ゲストメンバー:
    中田真由美(声あそびの表現家)、袴田容(チェロ奏者)、若鍋久美子(打楽器奏者)、渡邉智美(声楽家・俳優)、大西健太郎(ダンサー・パフォーマンスアーティスト)、池田翔(録音・音響)、田口喬大(録音・音響)

    2023年12月18日(月)18:30~20:00 オンライン配信 *講師・出演者はスタジオから参加

    企画実施 オンラインプログラム:楽譜作り&作曲家体験ワークショップ

    自宅に届いた作曲キットを使ってオンラインで演奏家たちとコミュニケーション


    11月に対面で実施したプログラムを、12月はオンラインで実施した。

    このプログラムでは、ちょっと変わった楽譜「ノノトーン」を作ります。「ノノトーン」を作って、画面越しにミュージシャンに見せると、なんと演奏してもらうことができます。 イメージやアイデアを音で表現するスペシャリストであるミュージシャンたちを呼んで、「ノノトーン」を使って一緒にイメージを交わし合う時間は、きっと特別な体験となるでしょう。
    また、このようにして生まれた音を録音し、編集して組み合わせることで、1つの大きな音楽へと仕立てていきます。果たして、このプログラムが終わるときには、そこにどんな音楽が存在しているか。だれにもわかりません。 皆さんはこの教科書のないライブのお客さまであり、そこで演奏される楽曲の作曲者であり、ライブを一緒につくりあげるプロデューサーでもあると言えるかもしれません。
                              〜ロートこどもみらい財団の告知文章より抜粋〜

    参加するこどもたちの家には、五本の線が書かれたカラフルな紙と丸いシールなどが入っている作曲キットが事前に届けられた。 当日は作曲家の井川丹とゲスト演奏者たちがスタジオに集い、音響技術スタッフや映像配信スタッフなどと共にオンラインでこどもたち(メロー)を出迎えた。

    最初に井川から「楽譜」の起源とその内容に関するレクチャーがあり、こどもたちはさまざまな形式の楽譜があることを学び、作曲家がイメージを伝えるために試行錯誤した記譜法などの魅力と出合った。その後、こどもたちは対面開催の時と同じく楽譜「ノノトーン」作りにのめり込み、演奏者たちとの交流を楽しんだ。三線や声で表現するシンガーのEri Liaoさんと、エフェクターなどを駆使して弦の音色で子どもたちに応答するギタリストのファルコンさん、スタジオの音を10ch(チャンネル)のマイクを駆使して臨場感たっぷりに届ける田中文久さんと田口喬大さん、その様子を配信する映像作家の坂本裕司さんが力を合わせてその場を盛り上げた。

    個別に発送された「ノノトーン」の作曲キット。
    スタジオに集まった講師とゲストの演奏者やスタッフ。
    こどもたちの関心を深められるよう、井川が質問形式で楽譜に関するレクチャーを行う。
    記録資料が残るさまざまな図形楽譜を紹介した。
    約2000年前の石碑に書かれた楽譜の演奏を試みるシンガーのEri Liaoさん(左)。

    ※プログラムの冒頭にゲストが演奏したのは「セイキロスの墓碑銘」と呼ばれる曲。完全な形で残っている世界最古の楽譜として、墓石に刻まれているものだ。古代ギリシアの記譜法によるメロディーの指示がある。
    質問するこどもたちに答える講師役の井川。
    井川が見せた楽譜「ノノトーン」のサンプル。シールと線や文字も組み合わせて作ることができる。
    こどもたちが作った楽譜をオンライン越しに読み取りながら演奏する。
    シールをいくつも重ね合わせて描かれたノノトーン。
    スタジオ内にたくさんの機材を並べて演奏するファルコンさん(右)。
    足元にもエフェクターを並べて演奏。こどもたちの膨らむアイデアに応えた。
    画面下中央がロートこどもみらい財団の代表の荒木。チャットでのこどもたちの質問にも対応しながら進めた。

    ゲストメンバー:
    坂本裕司(映像作家)、Eri Liao(シンガー)、ファルコン(ギタリスト・作曲家)、田口喬大(録音・音響)、田中文久(作曲家・ソニフィケーションアーティスト・サウンドプログラマー)